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佐賀地方裁判所 平成6年(行ウ)4号 判決

原告

南部環境都市株式会社

右代表者代表取締役

市川清

右訴訟代理人弁護士

井手豊継

藤尾順司

被告

基山町長

天本種美

右訴訟代理人弁護士

安永宏

右訴訟復代理人弁護士

牟田清敬

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告が平成六年六月九日原告に対してなした林道使用不許可処分を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、産業廃棄物の処理等を業として営む原告が、山林内の埋立工事現場に建設残土を搬入するため、被告に対し、被告管理にかかる林道の使用許可申請をしたところ、被告からこれを不許可とする処分を受けたことから、その処分の取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実及び括弧内の証拠により認められる事実

1  原告は、産業廃棄物処理業等を目的とする株式会社である。(争いのない事実)

2  基山町は、佐賀県三養基郡基山町大字園部柿の原、同古屋敷所在の総延長七五〇四メートル、幅員四メートルの林道寺谷線(以下「本件林道」という。)を所有している普通地方公共団体であり、被告は基山町林道管理規則(乙一)に基づき本件林道を管理している。(争いのない事実、乙一、一八、二四ないし二七)

3  原告は、平成六年五月一二日、佐賀県三養基郡基山町大字園部所在の有限会社フジヤエンタープライズ所有土地{別紙図面記載の南部開発残土処分場(七万立方メートル)(水色で囲まれた部分)の土地(以下「本件処分場」という。)}に土砂運搬をするため、基山町林道管理規則四条に基づき、被告に対して本件林道使用の許可申請をした。同申請書には、「運搬物の種類、数量」として「土砂、七万立方メートル」、「使用期間」として「平成六年五月一七日から平成七年六月三〇日」、「運搬方法」として「当社所有車両三台以内にて午前八時より午後五時迄、不定期的に運搬」、「その他必要事項」として「当社車両による損傷箇所が著しく、他の車両の通行に支障をきたす場合は、その都度原状に回復する。」と記載されている。(以上、争いのない事実、甲一、証人吉富哲也)

4  ところが、被告は、平成六年六月九日、原告の許可申請は、基山町林道管理規則二条の使用目的に該当しないとして、これを不許可とする処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。(争いのない事実、甲二)

5  基山町林道管理規則(以下「本件規則」という。)は、地方自治法一五条一項に基づき被告が定めたものであるところ、同規則二条には、「この規則の適用をうける林道は、主として林産物の搬出をなす目的で町が開設し、林道として認定したものをいう。」、同規則四条には「林産物、土石、その他建設用資材を運搬するため、林道を使用する者は、町長の許可を受けなければならない。ただし、人背、牛馬車、二輪車、農耕用けん引者、軽四輪自動車による運搬その他林道の補修、開設工事に伴う資材等の運搬についてはこの限りでない。」と規定されている。(乙一)

6  原告は、平成六年八月二日、本件不許可処分について、行政不服審査法に基づき、被告に対し、異議申立てをしたが、同年一一月九日、右異議申立てを棄却するとの決定がなされた。(争いのない事実、甲五)

二  争点(本件不許可処分の適法性)

1  被告は、法律の授権に基づかず林道の使用を規制する権限を有するか。

2  被告に林道の使用を規制する権限があるとして、本件不許可処分は、被告の裁量行為を逸脱した違法な行為か。

三  当事者の主張

1  被告の主張

(一) 公共用物につき、それが本来の使用目的以外の使用に供され、その結果、本来の林道開設の趣旨、目的に沿った使用が阻害され、その利便や安全に憂慮すべき影響を及ぼすおそれがある場合には、町長の裁量により、当該目的外使用を制限することは許されるべきである。

(二) ところで、本件林道は林産物の搬出をなす目的で開設された林道であるところ、原告の許可申請にかかる林道の使用目的は土砂の運搬であり、本件規則二条の使用目的に該当しない。

(三) また、原告が、林道使用許可申請書に記載した運搬しようとする土砂の量は、七万立方メートル、使用期間は平成六年五月一七日から平成七年六月三〇日となっている。単純計算しても一年間で、一〇トンダンプ延べ七〇〇〇台が本件林道を行き交うことになる。一日当たりにすると約二〇台であるが、休日を考慮すると、その通行量はさらに増加する。このように一日当たり少なくとも二〇台の大型ダンプが毎日この林道を行き交って、原告の土砂処分場に出入りすることになると、その利用頻度は、他の山林所有者や散発的、不定期に利用する程度にすぎない不特定多数の利用者の利用頻度と比較して著しく均衡を失することになる。このような林道利用の頻度や形態において、事実上原告の専用道路化し、本来の林道利用者や不特定・不定期の利用者の共同利用を妨げかねない使用は、本件林道の本来の利用目的を逸脱した使用というべきである。

さらに、本件林道は、都市の本格道路と異なり、土砂を積載した大型トラックが頻繁に往来することを予想して十分な安全施策や構造上の強度が講じられているとは言い難く、道幅も狭く、曲がりくねった道路である。したがって、土砂を積載した大型トラックが頻繁に往来することになれば、交通の保全に対する支障ないし損害を与えるおそれが具体的に存在する。

(四) そうすると、被告が、本件林道使用許可申請は本件規則二条の林道使用目的に該当しないと判断し、また、本件林道が原告の専用道路化することを危倶し、さらに、交通の危険を伴うものと判断して、本件不許可処分をしたことは社会的合理性を有する。よって、本件不許可処分に違法はない。

2  原告の主張

(一) 道路は、元来、一般交通の用に供するため公共施設として設置・管理されているものであるから、原則として、一般公衆の自由な通行が認められるべきである。そして、この理は公共の使用に供することを目的とした公共用物である林道にも当てはまるものである。

したがって、道路本来の用法に従った使用である限り、林道は自由に使用できるはずのものであり、これを行政機関が規制する場合には、基本的には法律によるか(憲法四一条)、法律による個別的委任がなければならないものというべきである。さらに、道路使用につき適法に許可制にした場合でも、必要な限度を超えて道路の使用を制限することは前記林道使用の自由の原則に照らし許されない。したがって、被告の裁量行為は他人の共同使用を妨げ、又は道路交通の危険を生じさせたり、交通の妨害となるおそれがあるなどの支障のない限り許可をしなければならないという拘束を受け、その意味で被告の道路使用の許可は羈束裁量行為というべきである。

(二)(1) しかるところ、被告は、法律による授権もなく、本件林道の使用を許可制にする本件規則を制定している。したがって、同規則は無効であり、これを根拠とする本件不許可処分は違法というべきである。

(2) 仮に、被告が、法律による授権もなく林道を許可制にすることができたとしても、合理的な理由のない限り道路の使用を制限することは許されない。しかるに、被告は合理的理由もなく原告の自由使用を制限しているから、本件不許可処分は違法である。

(三) 被告は、林道の本来的使用目的は林産物の搬出であって、原告申請にかかる林道の使用目的(土砂の搬入)は右目的に該当しない旨主張するが、被告主張のように林道の使用目的を狭く解すると、単に山林を通行することさえも目的外使用となってしまうという非現実的な結果となる。林道が林産物を搬出することを目的として開設されたとしても、開設後は、林道の通行をかかる目的による通行だけに限っているわけではない。山林に入ったり、あるいは山林を通り抜けるために林道を通行することは自由となっているのが実態である。したがって、開設後は林道は一般公衆の通行の用に供していると見るべきであり、林産物に限らず、その他の運搬を含めて一般交通はすべて林道の本来的使用というべきである。林道の目的外使用は、その本来の用法を超えて林道の地上又は地下に、一定の施設を設けて継続的に使用する場合とか、他の者の利用を妨害し、排他的に利用する場合などをいうと解すべきである。

原告申請にかかる土砂の運搬も林産物の運搬もトラック等の車両によって行うのであり、運搬物は異なっていても林道の利用形態自体には基本的に変わりはないのであるから、土砂の搬入という使用目的も林道の本来的使用目的に合致すると解すべきである。被告が本件不許可処分にした真の理由は、原告の利用形態にあるわけではなく、原告が産業廃棄物処理業者であるということにある。したがって、本件不許可処分は被告の裁量行為を超えた違法な行為というべきである。

また、被告は、原告申請にかかる土砂搬入量から、原告の林道使用の交通量を計算し、その結果をもとに、交通の保全に支障が生じるかのように主張するが、被告の試算による、一日あたり一〇トンダンプ二〇台が行き交うという交通量は、これを仮に一日のうち一〇時間だけ本件林道を使用したとすると、三〇分に一台の交通量にすぎない。他にこれといった車の往来のない本件林道において、この程度の交通量を「頻繁な往来」と称し、「交通の保全に対する支障ないし損害を与える具体的なおそれがある」とする被告の主張は甚だ疑問である。

仮に、右程度の交通量でも本件林道の構造上及び交通保全上大いに問題があるということであれば、被告は原告との事前協議をもって適正な交通量(運搬回数、車両の重量等)に制限することは可能だったはずである。しかるに、右のような指導もなく、突如、本件不許可処分をなしたことは適正な行政手続という観点からも違法と言わざるを得ない。

(四) よって、本件不許可処分は違法である。

3  原告の主張(一)及び同(二)に対する被告の反論

(一) 全国民を対象とした一般の道路と、各地方公共団体の施策や地域の特性と結びついて一定の利用目的に限って、それに供する道路として開設された林道とは、その利用方法や形態は根本的に異なる。したがって、その設置目的を果たすために、その維持管理権も当該市町村に当然委ねられていると解すべきである。これらの維持管理権は設置者たる地方公共団体固有の権限として当然に内在するものであり、ことさらに法律の授権を必要とするものではない。

よって、本件林道の設置者たる基山町の長である被告は、法律の授権によることなく、右の維持管理権に基づき林道管理規則を制定し、その使用を規制することができる。

(二) 被告が、原告の本件林道使用許可申請を不許可としたのは原告が産業廃棄物処理業者だからというのではなく、原告の利用形態が他人の共同使用を妨げるような寡占的形態になること等によるもので、被告には裁量権の濫用はない。

第三  争点に対する判断

一  認定事実

前記第二の一の各事実及び証拠(甲一、二、乙一ないし六、九、一六、一八、二三ないし二七、証人吉富哲也、同平田通男、被告本人及び弁論の全趣旨)によれば、以下の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

1  本件紛争の経緯

平成五年ころ、本件林道周辺の山林について、不動産業者の用地買収の動きが始まり、同年一二月一日、福岡市中央区大名所在の建築士事務所「GOプランニッグ」所長高松浩二が、社会福祉施設、薬草園、貯木場等を造りたいとのことで、本件処分場付近の土地を買収し、当初、第三者名義で登記が経由された。

ところが、その後本件処分場の所有名義は右高松に移され、平成六年三月三一日には、本件処分場の所有名義は有限会社フジヤ・エンタープライズに移転された。右フジヤ・エンタープライズから本件処分場の埋立の依頼を受けた産業廃棄物処理業者の原告が、本件処分場に建設残土や細かくした建設廃材等の搬入を開始した。

平成六年五月七日、被告は、町民から原告のダンプカーが林道を通行して産業廃棄物を搬入しているとの通報を受け、同月九日、基山町の保険環境課から所轄の鳥栖保健所へ右事実を通報するとともに、同日午後、現場で建設廃材等を搬入しているダンプカーを確認し、業者に右建設廃材等を搬入しないように指示し、とりあえずこれらを持ち帰らせた。

同月一〇日、原告会社役員吉富哲也の立会いのもと、佐賀県廃棄物対策課、鳥栖警察署、鳥栖保健所、基山町とで合同現地調査を実施したが、その際、右の建設廃材等は産業廃棄物に該当すると判定された。そこで、原告は、役場の担当職員に一般建設残土のみを搬入するのはよいかどうか尋ねたところ、「それは問題がないが、とにかく、これは林道だから、最初に林道使用許可願を出してくれ。」と言われた。

原告は、右指導を受けて、同月一二日、前記第二の一3に記載の通り、林道使用許可申請書を提出したが、同年六月九日、被告は、本件規則二条の使用目的に該当しないとして、本件不許可処分をした。

ところで、基山町では、原告による右産業廃棄物投棄の経過を踏まえて、周辺住民の間に原告に対する不信感が高まり、平成六年六月二〇日、産業廃棄物等の搬入を阻止する決議が採択されている。

2  本件林道の概要及び利用状況

(一) 本件林道は、佐賀県三養基郡基山町内にあって、同町大字宮浦の瀧興徳寺前を起点とし、同町大字園部柿の原地区の入口を終点とする総延長七五〇四メートル、幅員約四メートルの林道であり、起点及び終点において県道に接続している。原告の使用申請にかかわる部分は本件林道のうち約八〇〇メートルの部分である。

(二) 本件林道は、森林法四条に基づいて農林水産大臣が立てた全国森林計画とこれに即して佐賀県知事が立てた地域森林計画、さらにこれに基づいて基山町が策定した森林整備計画により、基山町が事業主体となって昭和三三年に着工し昭和四七年に完成させたいわゆる民有林林道である。

(三) 本件林道の敷設事業は、第二次大戦後、荒れ放題になっていたこの地域に植林をし、緑の森林を蘇らせたいとの地元地権者からの強い要望を受けて、地域の森林の保続培養と営林事業の振興に資する目的で、昭和三三年の基山町議会で右事業の採択が行われ、昭和三三年度に事業費用二一三万二五〇〇円(このうち受益者寄附金五二万五〇〇〇円)で着工し、国庫補助事業として実施されたものである。林道敷地は、林道開設に際して、基山町において買収され、現在は基山町が所有している。

(四) 本件林道の開設に当たっては、道路法に基づく道路開設の手続は一切取られていない。

(五) 本件林道は、昭和四七年から昭和五一年までの五か年の間に、舗装整備が施されている。もっとも、一般の県道や町道の構造は、地盤の上にクラッシャラン(小石)を二〇センチメートルほど敷き、その上に厚さ五センチメートルの舗装がなされるところ、本件林道は、山の斜面を削って作られたもので、クラッシャランを一〇センチメートル敷き、その上に厚さ四センチメートルの簡易舗装がなされているにすぎない。現在では、右の簡易舗装もひび割れ等が生じているところがある。

(六) 本件林道は、平坦な道路ではなく山の斜面と崖の間を通り、カーブの多い道路であり、また、通常の道路と違って、交通安全対策上の信号機やカーブミラーも設置されていない。また、多くに急なカーブがあるものの、ガードレールもほとんどついていない。

(七) 本件林道の利用状況については、通常は、一日あたり、林道沿いの古屋敷地区の二戸一〇人の住民と林道沿いの田畑の耕作者二ないし三人と森林の間伐作業等で三ないし四人が利用している程度である。日曜、祭日は、ハイキングで数百人の人が通ることもある。平成八年六月四日火曜日と同月一六日日曜日の交通量調査では、歩行者は一〇人前後、自動車(小型)は六月四日で二三台(下り)、一六日で六〇台(下り)が通った。

なお、三月から五月の春の観光シーズンと九月から一一月の秋の観光シーズンは、基山への登山道として、また、九州自然歩道の一部として、平日でも百数十人、日曜祭日ともなると千人余りのハイカーが本件林道を利用している。

二  判断

1  争点1(法律の授権の要否)について

(一) 林道については、森林法や森林組合法等に若干の規定(森林法四条二項四号、五条二項五号、五〇条一項、森林組合法九条二項五号、同条四項、一〇一条一項七号、同条二項など)が散見されるにとどまり、その管理権限や方法等については法規制は存在しない。

(二) そこで、まず、本件林道は、いわゆる公共用物に該当すると解すべきところ、その管理権限について考察するに、前記認定事実によれば、①本件林道は、基山町が事業主体となって開設した民有林林道であること、②本件林道は、基山町内にあって、その設置区域の森林の保全、営林事業の振興を図る目的のもとに開設されたものであり、地域に密着した形で存在し、その地域の営林事業者が主体となって享受するものであることが認められ、これら事実に照らすと、本件林道は、その実情を最も把握しやすい基山町が管理することが行政単位として最も相応しいものと解される。したがって、本件林道の管理については、地方自治法二条二項、三項二号の「自治事務」に該当するものとして、基山町が管理権限を有すると解するのが相当である。

(三) ところで、基山町に林道の管理権限があるとしても、それが個人の権利を規制し、自由を制限するいわゆる行政事務に関わるときは、法律の授権あるいは条例の定めを要するものというべきである(地方自治法一四条二項参照)。本件においては、被告は、林道管理権の行使の一環として、一定の物の運搬のため林道を使用する者についてその使用を町長の許可にかからしめる規則を制定しているが、果たして、法律の授権あるいは条例の定めによらずに、かような林道使用を許可制にすることが許されるかが問題となる。

しかしながら、本件林道は、道路法所定の開設手続を経た道路法上の道路ではなく、それが地域の森林保全及び営林事業の振興を図るという極めて限定的な地域の特定の公共的目的のもとに開設されたにすぎないものであり、道路の構造も一般の県道や町道の構造とは異なり簡易舗装がなされているにすぎず、幅員は狭く、カーブが多く、信号機やカーブミラーも設置されておらず、ガードレールもほとんど設置されていないなど、交通の安全のための設備も不十分なものである。これらの点に鑑みると、本件林道は、一般公衆の用に供することを直接の目的とし、設備や構造も比較的整う道路法上の道路とは自ずと異なるのであって、これを利用する利益は一般人の権利とまでは言えないと解すべきである。

なるほど本件林道は、森林保全や林産物の搬出の目的のみならず、地域住民の生活道路としても利用され、あるいは一般人が登山や森林浴等のレジャー目的で通行することが許されているが、それは散発的なものにすぎず、その性質は、地域の森林保全や営林事業の振興という本来の目的を達成するにつき支障のない限度で事実上許されているにすぎないと解すべきである。

そうすると、林道の使用を町長の許可にかからしめることは、それが個人の権利を規制し、自由を制限するものとは言えないから、いわゆる行政事務にあたらず、法律の授権や条例の定めによらずとも許されると解される。

なお、地方自治法二四四条の二第一項は、同法二四四条第一項の「公の施設」については、その設置及び管理に関する事項について条例の定めが必要である旨規定しているが、右にいう「公の施設」とは、道路法上の道路や公園などの本来他の共同使用を妨げない限度において住民一般の自由な使用に供することを直接の目的とするものをいうものと解すべきであり、本件林道のように、地域限定的な特定の公共目的のもとに開設され、多数の利用者による一般使用に耐えられない粗雑な構造を持つものは含まれないと解するのが相当である。

(四)  以上のとおり、町長である被告が、法律の授権や条例の定めによることなく、地方自治法一五条の権限に基づいて林道管理規則を制定し、本件林道の使用を町長の許可にかからしめることは可能であるとみるのが相当である。

2  争点2(規制の合理性)について

前述のように、町長である被告が、本件規則を制定し、林道の使用を町長の許可にかからしめることが許されるとしても、林道が地域限定的かつ特定目的であるとはいえ一応公共の用に供する物であることに鑑みれば、林道使用の許否の判断は、町長の全くの自由裁量であるとは解されず、林道開設の趣旨・目的に照らし、林道の本来的機能を害する場合(林道設備自体の保全や林道交通の安全を損なう場合もこれに含まれる。)、あるいは他人の共同使用を妨げるおそれがある場合等にのみ規制ができると解すべきである(羈束裁量)。

したがって、原告が使用目的として掲げる「土砂の運搬」が「林産物の搬出」という林道の開設目的に合致しないというだけでこれを規制することは許されないというべきである。

しかしながら、本件においては、原告の申請にかかる土砂の搬入量は七万立方メートルであり、その搬入の期間は実に四一〇日間にものぼり、計算上平均一日当たり約二〇台の一〇トン車が林道を通行することになるところ、本件林道の構造は、一般の道路とは異なる簡易舗装であり、また、本件林道は幅員も狭くカーブが多い危険性の高い形状をしているところ、交通安全対策上の信号機やカーブミラーやガードレールも十分に設置されていない状況である点を考慮すると、その通行は、林道設備それ自体を損壊し、あるいは交通の安全を害するおそれが高いものと認められる。また、本件林道は、平日は林道沿いの住民が生活道路として利用し、土曜日や日曜日には、登山やハイキングを楽しむ森林愛好者がその利用を享受しているが、原告許可申請にかかる林道使用の頻度、予想される通行車両の型式に照らせば、その使用を許可すると、事実上原告の林道使用の専有使用を許すことになり、右近隣住民や森林愛好者らの林道使用が著しく制限されることになる。

そうすると、原告の本件林道使用許可申請は、その使用目的が単に林道の開設目的に合致しないというだけではなく、本件林道開設の趣旨・目的に照らし、林道の本来的機能を害する場合に該当し、かつ、他人の共同使用を妨げるおそれがある場合に該当すると認められるので、これを不許可とするのもやむを得ないというべきである。

なお、原告は、被告が本件不許可処分をなすに当たり、適正な交通量に減らすような事前協議もせず、原告に対して何の指導もしなかった点を捉えて、本件不許可処分の違法を主張するが、林道使用許可申請に対する許可・不許可をする際にその前提として、被告に事前協議や指導をなすべき義務を課した規定はなく、右の事前協議や指導がないことをもって直ちに本件不許可処分が違法となるということはできない。

したがって、被告が原告に対してなした本件林道の使用不許可処分は被告の裁量内の行為であり、適法というべきである。

三  結論

以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとする。

(裁判長裁判官木下順太郎 裁判官一木泰造 裁判官遠藤俊郎)

別紙〈省略〉

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